oil stories — castor
とろりとして、肌の表面をしっかり守る。ヒマシ油は、植物オイルのなかでもかなり変わったオイルです。しかもその守る力のほとんどが、たったひとつの成分から来ています。
トウゴマという植物から
ヒマシ油は、トウゴマという植物の種を搾ったオイルです。トウダイグサ科の植物で、名前にゴマとつきますが、ゴマとはまったく別の仲間です。
英語ではキャスターオイル。化粧品の成分表示でも「ヒマシ油」と書かれます。
インド、ブラジル、中国などで広く栽培されていて、じつは工業用にも大量に生産されている、身近なオイルでもあります。
9割が、ひとつの脂肪酸
ここが、このオイルのいちばん変わっているところです。
- リシノール酸約85〜90%
- その他の脂肪酸約10〜15%
ふつうの植物オイルは、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸といった複数の脂肪酸が、それぞれ数割ずつ混ざり合ってできています。バランスの上に成り立っている、といってもいい。
ヒマシ油は違います。
たったひとつの脂肪酸で、
9割ができている。
しかもこのリシノール酸という脂肪酸は、ほかの植物オイルにはほとんど含まれていません。ヒマシ油だけが持っている、といっていい成分です。
理由は、この脂肪酸が水酸基という、油には珍しい構造を持っていることにあります。
とろみが強く、アルコールに溶ける
水酸基があると、オイルの性格が変わります。
まず、とろみが強くなる。ヒマシ油は植物オイルのなかでもっとも粘り気の強い部類で、瓶を傾けると、はちみつのようにゆっくり動きます。
そして、アルコールに溶ける。ほとんどの植物オイルはアルコールに溶けませんが、ヒマシ油は溶けます。オイルでありながら、少しだけ水寄りの顔を持っている。
守る力が、とても強い
リシノール酸がしていることを、ひとことで言えば——守ることです。
水酸基は、分子どうしを弱く引き合わせます。だからヒマシ油は、とろりと重い。そしてそのとろみが、肌や髪の表面に薄い膜をつくります。
肌がかさつくのも、髪がぱさつくのも、内側の水分が表面から逃げていくからです。ヒマシ油の膜は、その出口にふたをします。
髪の場合は、もうひとつあります。とろみのあるオイルが表面をなめらかに覆うので、指通りがよくなり、つやが出ます。キューティクルの浮きをおさえて、枝毛や切れ毛を防ぐのにも役立ちます。
これが、ヒマシ油が「乾燥を引き起こすヴァータ(風)の敵」と呼ばれる由縁です。
表面にとどまって、
守りつづける。
植物オイルはたくさんありますが、これほど表面に残って働くオイルは多くありません。ヒマシ油が何千年も使われてきたのは、この守る力の強さによります。
ただし、単体では重さのあるオイルです。ほかのオイルと組み合わせて使うのが、伝統的な形でした。
アーユルヴェーダは、どう見ていたか
さきほど出てきた「ヴァータの敵」という呼び名について、もう少しだけ。
アーユルヴェーダでは、このオイルをエランダと呼びます。そのいくつもある別名のなかに、ヴァーターリ——「ヴァータの敵」があります。
ヴァータというのは、アーユルヴェーダが考える3つの性質のひとつです。乾燥、冷え、不安定さ。かさついて、冷えて、落ち着かない。そういう状態をまとめて、こう呼びます。
- 性質温める
- 向き合う先乾燥と冷え(ヴァータ)/重さと滞り(カパ)
つまりアーユルヴェーダは、このオイルを乾燥と冷えに向き合うものとして使ってきました。
だから、使いどころもはっきりしています。空気が乾く季節。冷房や暖房のきいた部屋。かさつきやすい肌と、ぱさつきやすい髪。そういうときに重宝されるオイルです。
インドでは、飲むオイルでもあります
ヒマシ油には、塗る以外の使われ方もあります。
インドでは古くから、体の内側を整えるために少量を飲む使い方が伝えられてきました。アーユルヴェーダの古い書物にも、その用法が繰り返し登場します。日本でも、かつては薬局に置かれていたオイルです。
なぜ飲むと作用するのかは、はっきり解明されています。腸のなかでリシノール酸が切り離され、腸の筋肉にあるスイッチを押すのです。塗ったときのとろみも、飲んだときの作用も、全てがつながっています。
ただし、作用の強いオイルです。専門家や医師の判断なしに、自己判断で飲まないようにしてください。
体質別の、付き合い方
ヴァータ
乾燥する、かさつく、ぱさつく、冷えている。——まさに名前のとおり、この体質に向き合うためのオイルです。温める性質と、なめらかさの両方を持っています。
カパ
べたつく、重い、張りついた感じ。——鎮める側に入ります。ただしとろみの強いオイルなので、量は少しで十分です。
ピッタ
熱がこもる、赤みが出やすい。——温めるオイルなので、控えめに。冷やす素材と組み合わせて使うのが、伝統的な形です。