アーユルヴェーダの核心にある、ごま油とココナッツオイルの秘密
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journal — two oils
ごま油と、ココナッツ。
台所にある、5000年の知恵
インドの伝統医学アーユルヴェーダには、5000年かけて選び抜かれた「オイルの知恵」があります。数ある植物の中で、その中心に置かれてきたのが——キッチンでおなじみの、ごま油とココナッツオイル。なぜこの2つが、それほどまでに大切にされてきたのか。そして現代科学は、それをどう裏づけているのか。知ると少し世界が変わる、油の話です。
なぜ、ごま油は
アーユルヴェーダの“王様”なのか
アーユルヴェーダで「オイル」といえば、まずごま油を指すといっても大げさではありません。数百種類ある薬用オイルの、その大半がごま油をベースにつくられてきました。まさに核となる油です。理由は、大きく3つあります。
①体をあたためる「温性」のオイルだから
アーユルヴェーダでは、オイルにも性質があると考えます。ごま油は「温性」——体をあたため、乾燥や冷えをやわらげるオイルとされてきました。私たちの不調の多くは、乾き・冷え・不安定さ(アーユルヴェーダでいう「ヴァータの乱れ」)から来るとされ、ごま油はそれを鎮める、いわば“守りの要”だったのです。
②奥まで届く、特別な浸透力があるとされたから
アーユルヴェーダの伝統では、ごま油は数ある油の中でも、体の奥深くまでゆきわたる別格の浸透力を持つと考えられてきました。だからこそ、ハーブの力を移す“運び役”として重宝された。薬効のある植物をごま油にじっくり浸け込み、そのオイルを肌になじませることで、植物の恵みを体に届ける——という発想です。
③全身の手当ての基本だから
ごま油を全身にすり込むオイルマッサージ「アビヤンガ」は、アーユルヴェーダの日常ケアの中心。肌を養い、こわばりをほぐし、心を落ち着かせる——この毎日の儀式を支えてきたのが、ごま油でした。「オイルは千の病を癒す」という言葉が残るほど、オイル、とりわけごま油は暮らしの真ん中にあったのです。
現代科学が見つけた、
ごま油の“抗酸化パワー”
では、この伝統に、科学の裏づけはあるのでしょうか?
実際に、ありました。ごまには、セサミンやセサモールという、ごまだけが持つ特別な抗酸化成分が含まれています。抗酸化とは、肌の“サビ”——乾燥や老化の原因になる酸化——にブレーキをかける働き。このパワフルな成分のおかげで、ごま油そのものもとても傷みにくい油になっています。昔の人が理由も知らず「ごま油は日持ちする、肌にいい」と感じていたことには、ちゃんと成分の裏づけがあったわけです。
さらに、この成分を使った実験では、紫外線を浴びた肌で色素の沈着がおさえられたり、ハリに関わるコラーゲンが守られたり、という報告も出ています。「ごま油は肌を若々しく保つ」という言い伝えに、現代科学が少しずつ追いついてきているのです。
(ごま油に含まれる成分での実験の例です。)
ココナッツオイルは、
髪にとっての“特別なオイル”
ごま油が「温める油」なら、ココナッツオイルはその逆——「冷性」、ほてりを鎮める油とされてきました。暑い南インドやスリランカで、髪と頭皮を守る日常のオイルとして愛されてきた存在です。
そしてこのココナッツオイル、髪のケアにおいては科学的な裏づけがとても強いオイルでもあります。いろいろなオイルを比べた有名な実験で、ココナッツオイル・ヒマワリ油・鉱物油を試したところ——髪の傷みを防いだのは、ココナッツオイルだけでした。
秘密は、分子の形にあります。ココナッツオイルの主成分ラウリン酸は、小さくてまっすぐな形。だから、表面をコーティングするだけの他の油と違い、髪の内部にまでしみこめる数少ない油なのです。内部に入った油が、髪が水を吸って膨らむのを防ぎ、洗うときのダメージから守る。実験では、傷んだ髪から流れ出るタンパク質が、最大で約4割も減ったと報告されています。
5000年前から知っていた、
「塗って、置いて、洗う」
いちばん面白いのは、ここからです。そのオイルの実験は、こうも教えてくれました。ココナッツオイルは「シャンプーの後」ではなく「前」に、20分以上置いてから洗うのが、いちばん効果的だと。
これ、アーユルヴェーダのやり方そのものなんです。髪と頭皮に油をなじませ、しばらく置いてから洗い流す——インドで何千年も続いてきた「オイルパック」の作法と、寸分たがわず一致しています。
理由も仕組みも知らないまま、経験だけで「塗って、置いて、洗う」という正解にたどり着いていた。そして現代の実験室が、5000年越しに「その順番で合っています」と証明した。伝統の知恵の底力を感じる話です。
正反対の個性を持つ2つの油が、
どちらも核に置かれてきた。
2つのオイルが教えてくれること
ごま油
warm / 温める
抗酸化成分で、肌を養い守る。体をあたためる、温性のオイル。
ココナッツオイル
cool / 鎮める
髪の内部まで届いて守る。ほてりを鎮める、冷性のオイル。
温めるごま油、鎮めるココナッツオイル。抗酸化で肌を守るごま、内部まで届いて髪を守るココナッツ。正反対の個性を持つ2つの油が、どちらもアーユルヴェーダの核に置かれてきたのは、「油で肌と髪を養う」という、ひとつの思想があったからです。
そしてその知恵の多くが、現代科学とちゃんと重なっている。台所の油に、5000年の物語が眠っている——次にこの2つを手に取るとき、少しだけ、その奥行きを思い出してみてください。